大判例

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名古屋地方裁判所 昭和41年(ワ)1219号 判決 1967年3月22日

原告 藤田政利

原告 藤田育代

原告兼右両名法定代理人親権者母 藤田義子

右三名訴訟代理人弁護士 大脇保彦

大脇雅子

太田耕治

被告 濠綿株式会社

右代表者代表取締役 村手秀男

右訴訟代理人弁護士 佐野公信

主文

被告は原告三名に対し、各金四四九万四、六二五円、及び、右金員に対する昭和四〇年一一月九日から完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

原告等の、その余の請求を棄却する。

訴訟費用は二分し、その一を原告等の、その余を被告の各負担とする。

この判決は、原告等勝訴部分につき仮に執行することができる。

事実

原告等訴訟代理人は、「被告は原告三名に対し、各金八二四万八、三六五円、及び、右金員に対する昭和四〇年一一月九日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決及び仮執行の宣言を求め、その請求の原因として、

一、昭和四〇年一一月九日午後八時一〇分頃、岡崎市明大寺町字沖折戸六二番地の五先国道上において、訴外堀川敏二が運転して北進する普通貨物自動車(登録番号三河四さ六三一八号、以下被告車という)が、右道路を西から東に横断歩道により横断中の訴外藤田善民に衝突し、そのため、善民は頭蓋骨骨折、頭部内出血の傷害を受け、同日午後一〇時五五分頃、右傷害により死亡した。

二、被告会社は被告車の所有者であり、本件事故は、被告会社の従業員であった堀川が被告車を運転して被告会社の業務に従事中発生したものである。従って、被告会社は自動車損害賠償保障法第三条により、右事故によって生じた損害を賠償すべき義務がある。

三、本件事故により、藤田善民及び原告等が蒙った損害は、次のとおりである。

(一)  善民の得べかりし利益の喪失金一、六三九万五、三三七円善民は死亡当時満三九才一ヶ月余であり、本件事故に遭遇しなければ、満七〇才に達するまで三七〇ヶ月間稼働することができた筈であり、同人は事故当時、訴外有限会社藤田製作所の現業取締役(安城工場主任)として一ヶ月金九万三、三三三円の収入を得ており、その収入を得るために、一ヶ月金二万円の生活費を支出していた。従って善民は、本件事故による死亡のため、今後三七〇ヶ月間にわたり毎月少くとも金七万三、三三三円の純収益を喪失し、同額の損害を受けることになるが、これを事故当時の一時払額に換算するためホフマン式計算方法に従い各月毎の純益額につき一月一二分の五分の割合による中間利息を控除し、これを合算すれば金一、六三九万五、三三七円となる。

(二)  善民の慰藉料 金二〇〇万円

善民は、本件事故により致命傷を受け、洋々たる前途を失い、妻子を残して死亡するに至った。この精神的苦痛を慰藉するには、金二〇〇万円をもって相当とする。

(三)  原告義子は善民の妻であり、その余の原告等はその子で、いずれも善民の相続人であるから、原告等三名は、それぞれ善民の被告に対する前記(一)(二)の計金一、八三九万五、三三七円の損害賠償請求権の三分の一の請求権を相続した。

(四)  原告三名の慰藉料各金二〇〇万円

原告政利は教育大学附属中学一年に、原告育代は同大学附属小学五年にそれぞれ在学中であって、父を失った苦痛及び将来これによって蒙る不利益は極めて深刻であり、又、原告義子が夫を失い、将来子供等を養育していく苦労については多言を要しないところである。

この原告三名の精神的苦痛を慰藉するには、各金二〇〇万円をもって相当とする。

(五)  弁護士費用

原告三名は、被告が支払をしないため、原告等訴訟代理人に対し、本訴提起を委任し、その際、勝訴判決を得た場合には成功報酬として名古屋弁護士会報酬等基準規定による最低の報酬を支払うことを約束した。しかして、右規定によれば、目的の価額一〇〇万円以下の部分につき一割、一〇〇万円を超え五〇〇万円に達する迄の部分につき七分、五〇〇万円を超え一、〇〇〇万円に達する迄の部分につき六分、一、〇〇〇万円を超え五、〇〇〇万円に達する迄の部分につき五分と定められている。よって、前記(一)、(二)及び(四)の損害額合計金二、四三九万五、三三七円から後記強制保険金一〇〇万円を差引いた残額金二、三三九万五、三三七円につき、右の割合を乗じて成功報酬の額を算出すると、金一三四万九、七六六円となる。従って原告三名は、それぞれ右金額の三分の一に相当する額の損害を蒙ったものというべきである。

四、原告三名は、自動車損害賠償責任保険から保険金一〇〇万円を各三分の一宛受取った。

五、よって、原告三名は、それぞれ被告に対し、前記損害金から強制保険金を控除した残額金八二四万八、三六五円、及び、右金員に対する事故発生の日である昭和四〇年一一月九日から支払ずみまで年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

と述べた。

証拠≪省略≫

被告訴訟代理人は、「原告等の請求を棄却する。訴訟費用は原告等の負担とする。」との判決を求め、答弁として

請求原因第一項の事実中、藤田善民が前記国道を横断するに際し、横断歩道によったことは否認するが、その余の事実は認める。同第二項の事実のうち、堀川敏二が被告会社の業務に従事中、本件事故が発生したものであることは否認するが、その余の事実は認める。同第三項の事実中、原告等が善民の権利義務を相続したこと、原告等と原告等訴訟代理人との間に訴訟委任契約がなされたことは認めるが、その余の事実は不知。損害額は争う。同第四項の事実は認める。

と述べ(た)。

証拠≪省略≫

理由

一、原告等主張の日時・場所で、訴外堀川敏二が運転して北進する被告車が、右道路を西から東に横断中の訴外藤田善民に衝突し、そのため、善民が原告等主張のような傷害を受け、その主張の日時に死亡したことは、当事者間に争いがない。被告は、善民が横断歩道によらず前記国道を横断した旨主張するが、これに沿う≪証拠省略≫は、≪証拠省略≫に対比してたやすく採用し難く、他にこれを認めるに足る証拠はない。

二、被告会社が被告車の所有者であり、事故当時堀川が被告会社の従業員であったことは、当事者間に争いがなく、≪証拠省略≫によれば、(一)堀川は、被告会社取扱い商品の外交販売に従事し、仕事の必要に応じ、随時被告車をはじめ、他の被告会社所有の自動車を使用していたこと、(二)被告会社においては、自動車及びその鍵の管理は従来から必ずしも厳格でなく、勤務時間外でも、容易に被告会社の自動車を使用できる状態であったこと、(三)本件事故当日、堀川は私用で安城の北明治に行くため、当直員に断って被告車の鍵を持出し、残業で遅くなった被告会社従業員二名を同乗させて、被告車を運転中に、本件事故を惹起したことが認められ、右認定を左右するに足る証拠はない。してみると、本件事故当時の被告車の運行は、堀川の無断運転によるものであったにしても、これを客観的・外形的に観察すれば、被告会社のためにする運行と認めるのが相当である。従って、被告会社は自動車損害賠償保障法第三条により、後記損害を賠償すべき義務がある。

三、そこで、本件事故による損害について考える。

(一)  善民の得べかりし利益の喪失による損害

≪証拠省略≫を総合すれば

(1)  善民は大正一五年一〇月一日生れの健康な男子で、本件事故当時満三九才であったこと、

(2)  善民は訴外有限会社藤田製作所社長藤田京一に見込まれ、昭和二七年一〇月その娘である原告義子と結婚し、昭和二八年に原告政利、同三〇年に原告育代をもうけ、事故当時、右会社の取締役として、同会社の安城工場長を委嘱されていたこと、

(3)  右会社は、工作機械の単能機の部品組立を主とし、資本金一八〇万円、従業員二、三〇人程度で、役員は京一、善民、原告義子の兄等身内の者が占める同族会社であるが、事業は、漸次発展の見込があること、

(4)  事故当時、善民の給与は月額金八万円、賞与は年間金一〇万円であったが、右収入には会社の利益配当に相当する部分も含まれており、昭和四〇年度は会社の業績不振のため、九・一〇・一一月の給与は月額金七万円に減額されたこと、従って同年度の同人の年収は合計一〇三万円になる筈であったこと、

が認められ、右認定を覆すに足る証拠はない。右事実と、満三九才の健康状態普通の男子の平均余命年数が(昭和四〇年度簡易生命表によると)三二・六三年であることを考え合わせると、善民は本件事故に遭遇しなければ、爾後、さらに少くとも二六年間は、毎年金一〇〇万円の収入を得ることができたものと推認される。

しかしながら、他方、善民は右収入をあげるために必要な生活費の支出を免れたのであるから、これを控除すべきであり、その額につき考えるに、総理府統計局発表の「昭和四〇年度家計調査年報」記載の年間平均支出額に、善民の家庭及び生活環境を彼此参酌すると、同人は、その稼働期間を通じて、各年度の収入金額の三割に相当する金三〇万円を生活費として費消するものと認めるのが相当である。原告義子本人尋問の結果中右認定に反する部分はたやすく採用し難い。

従って、善民は、本件事故による死亡のため、爾後二六年間にわたり毎年金七〇万円の割合による純収益を喪失し、同額の損害を受けることになるが、これを、本件事故当時の一時払額に換算するため、ホフマン式計算方法に従い各年毎の純収益額につき民法所定の年五分の割合による中間利息を控除し、これを合算すれば、金一、一四六万五、二六五円(円未満切捨)となる。

(二)  善民の慰藉料

善民は、本件事故により致命傷を受け、前途ある将来を奪われ、妻子を残して死亡するに至ったものであり、本件事故の原因・態様その他諸般の事情を考慮すると、善民の精神的苦痛に対する慰藉料としては、金一〇〇万円をもって相当と認める。

(三)  原告義子が善民の妻であり、その余の原告等がその子であることは、前認定のとおりであるから、善民の死亡により、原告三名は、それぞれ、善民の被告に対する右(一)、(二)の計金一、二四六万五、二六五円の損害賠償請求権の三分の一の金四一五万五、〇八八円(円未満切捨)の請求権を相続したこと、明白である。

(四)  原告三名の慰藉料

証人藤田恒方の証言及び原告藤田義子の本人尋問の結果によれば、現在、原告政利は愛知教育大学附属岡崎中学に、原告育代は同大学附属小学校にそれぞれ在学中であり、原告義子は父の経営する前記会社に事務員として勤務していることが認められ、同人の事故死が原告等に与えた精神的打撃は多大であったものと推察することができる。これに、本件における諸般の事情を考え合わせると、原告等の精神的苦痛に対する慰藉料としては、原告等各自につき金五〇万円をもって相当と認める。

(五)  ところで、原告三名が自動車損害賠償責任保険から保険金一〇〇万円を各三分の一宛受取ったことは、原告等において自認するところであるから、原告等各自につき、前記損害金四六五万五、〇八八円から保険金三三万三、三三三円(円未満切捨)を差引いた残額は、金四三二万一、七五五円となる。

(六)  弁護士費用

原告等が原告等訴訟代理人に本訴提起を委任したことは、当事者間に争いがなく、本件弁論の全趣旨によれば、その際、原告等主張のような報酬支払の約束がなされたことが認められる。しかして、交通事故の加害者が被害者の賠償請求に対し任意に支払をしないときは、通常、弁護士に訴訟委任しなければ、その権利の実現は困難であるから、これに要する弁護士費用は、事故と相当因果関係にある範囲内で、損害と認めるのが妥当である。

そこで、本件における請求額・認容額・事案の難易、及び≪証拠省略≫によって認められる名古屋弁護士会報酬等基準規程等諸般の事情を考慮すると、被告は原告三名に対し、それぞれ前記(五)の損害金残額に対する四分の割合による金一七万二、八七〇円(円未満切捨)を、訴訟委任の費用(謝金)として賠償すべき義務がある。

四、以上の理由により、原告等の本訴請求は、被告に対し、原告三名それぞれ前記三の(五)、(六)の計金四四九万四、六二五円、及び右金員に対する事故発生の日である昭和四〇年一一月九日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度において理由があるので、これを認容し、その余はいずれも失当として棄却する。

よって、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条、第九二条、第九三条、仮執行の宣言につき同法第一九六条を各適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 山口正夫 裁判官 戸塚正二 上田誠治)

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